No.11 2002.12.17記

  学校では5年生になりました。ヴァイオリンを作る方はだいぶ分かってきたのですが、次はニスが課題です。ニスはマエストロによって作る以上にいろいろな方法があり、自分の方法を見つけないといけないので苦労しました。
 この年は、天災や人災の多い年でした。イタリアには火山があるので地震がありますが、耐震構造の建物は少なく直ぐに建物が崩れます。地震で多くの子供たちが亡くなりましたが、工事の手抜きがあり人災でした。
日本料理店が出来ましたが、この店は一年も持ちませんでした。このあと、また日本料理店ができましたが、今のところ続いています。ただ、そこで焼きそばを食べましたが、そばが日本ソバのそばだったのには驚きました。経営者は中国人です。

12月に入りクレモナの街は例年のように主な通りの上にはクリスマスの飾り付けがされ、またクリスマス用に蒸気機関車の形をしたバスが子供達やお年寄りを乗せて楽しそうに走っています。普段のバスも走っているのでまだ一度もこのバスには乗ったことはないのですが、運転手はサンタクロースの格好をしており一度乗ってみようと思っています。そして土曜日や日曜日の夕方には大勢の人達が通りを歩いてプレゼントを買ったりウインドーショッピングを楽しんでいます。日本と比べると本当に娯楽の少ないクレモナですが、あるといえば映画館とゲームセンター、それに郊外にあるディスコぐらいですが、でも人生の楽しみ方についてはイタリア人の方が日本人よりはるかに上手だと感心させられます。
 学校は去年同様に州の授業が週2回(午後2時半から6時半まで)増え、平日の午後も授業がある日が多いのでヴァイオリン作りの時間があまり取れません。今、家では5台目を作っていますが、夏に日本に帰った時に完成しなかったニスの作業もあり進んでいません。一台目のニスはこちらにいる日本人のマエストロに習いながら塗ったのですが、そのあとのものをいざ自分一人でやってみるとトラブルも多く、なかなか上手くいきません。一度は調合した色を確認しないで塗ったため色が濃くなり過ぎ、完成近くまで塗られたニスをアルコールで取り、最初からやり直しました。学校でもニスの授業があるのでヴァイオリンを持っていきマエストロに聞いたのですがやり方がかなり違っております。日本人のニスの方が塗る回数が多く少し厚い感じがします。学校のマエストロ(イタリア人)は塗る回数は全部で30回前後ですが、日本人の場合は50回近く塗る人もいます。それに表面も日本人の方がよく磨いており、鏡のように光らせる人もいますがこれは日本人の好みだと言うことです。私はまだどれが良いかはわかりませんので自分で経験して選択するしかないのです。今まで経験がなかったのでニスのひとつひとつの作業が後にどう影響するのか分からなかったのですが今回2本のヴァイオリンを塗ってだいぶ分かってきました。また、今回は寒くなってきて乾燥に時間が掛かったのですが、調合を加減して乾き易いニスを作ることも分かってきました。学校のマエストロがニスはヴァイオリン作りとは別の才能が必要だと言っていたのですが、作る以上にその人の個性がでるのでいろいろのやり方があるのです。
 学校では今ビオラを作っており、完成は1月になると思います。自分自身はビオラの音はあまり好きではないので作る機会は少ないと思っているのですが、実際に作ってみるとヴァイオリンとの違いもあり、失敗もしました。また州の授業では弓のコースが12月まであり、毛替などを習いました。弓の毛替えはヴァイオリン作りとは直接は関係の無い仕事ですが同級生達はみんなそれぞれの国に帰ってから積極的に受けてする仕事なので真剣に習っていました。私も自分の弓も含め3本の毛替えを行い、何とかできるようになりました。来年からは組み立て調整の授業が始まります。
 今年はイタリアは地震や大雨による洪水、それにエトナ山の噴火と天災、人災の多い年でした。ご存知かと思いますが、11月にはイタリア中部で地震があり校舎がくずれて幼稚園児や小学生など29人が亡くなりました。日本では何かあると学校の校舎が避難所として使われているので小学校の校舎が倒壊するというのは考え難いのですがどうも工事に手抜きがあったようです。工事の手抜きは日本よりはるかに多いと思います。道路などは、1年も経たないうちに道が凸凹になり、大きな穴があいています。自転車で走っている時などは気をつけていないと危ないのです。そして、この地震のすぐあとにクレモナの北約100kmの所でも地震があり、家や道路が崩れて少し被害がでました。幸いにもクレモナは殆ど地震がないのですが、古い石作りの建物が多く、また傾いている家もあるので地震があると被害は大きいのです。テレビなどでこうした災害の状況を見ていると政治の影響を強く感じるのですが、日本の方が建築基準法などの整備が出来ており、また対策も技術的に進んでいると思います。
 ところで今イタリアでは自動車会社のフィアット(FIAT)の経営状況が悪く従業員の解雇が発表されてから頻繁に工員のストライキがあります。ストだけでなくデモもあるのですが、高速道路に入り通行をストップすることもあります。それにこのフィアットの解雇に反対して高校生のデモもあります。おそらく親達が解雇されると自分達も学校に行けなくなるという理由からだと思います。前にも書きましたがイタリアではよくストがあり、たとえば12月14日の土曜日は公務員のストライキがあり、市役所や郵便局などが機能しませんでした。また16日の月曜日にはバスや地下鉄などの市営の交通機関のストがありました。こんな調子で2~3ヶ月に一度位の頻度で鉄道やバスなどの交通機関のストがあります。イタリア人の友人に聞くと中道右派に政権が変わった去年の5月から急にストが増えたとのことですが、市民はあまり文句を言わず仕方ないなぁという感じで我慢しています。
 これはお知らせですが、NHKの海外向け放送(短波)でも頻繁に放送しているのですが、今年の7月に移民法が改悪されてイタリアに8日間以上滞在する場合は、イタリアの警察署で滞在許可証を発行してもらうことが必要になりました。この法律は以前にもあったのですが今までは警察からただ国外退去の書面をもらうだけでした。それが最近は国外への強制退去になりその前に一時的に収容所に入れられる場合もあるとのことです。私のようにこちらに3ヶ月以上滞在する場合には、こちらの警察署に滞在許可証を発行してもらうのですが、この申請時には警察署で3時間位は待たされ、忍耐が必要です。旅行者の場合もほぼ同様の手続きなので同じ時間待たされることになります。ですから現実的にはイタリアに8日間以上滞在することは難しくなってきましたので、もし長くなる場合には一度スイスやドイツなどに行き、また戻って来るという方法が考えられます。こんなことではイタリアにくる観光客は減ってしまうのですが、これも政権が変わった影響で一部の右派政党が移民(難民)に反対するためにこの法律を作ったのです。日本では考えられないことですが、与党の中道右派連合にはイタリア北部だけで独立しようという考えの政党(北部同盟)があります。これは北部の人達が働いて稼いだお金(税金)を南部の働かない人達に持っていかれるのはイヤだというのがその理由です。同じ国の中でこういう考えがあるというのは日本では考え難いことです。同じイタリア人でも南(特にシチリア)と北とではかなり性格や習慣が違うので私からみるとひとつの国としてあるのが不思議と思うほどです。ただ、まだイタリアはこのことでテロはありませんが、スペインはもっと民族の独立意識が強くテロが頻繁にあります。同級生の中にスペイン人がいますが彼はカタロニア(バルセロナ)の出身でいつも「俺達はスペイン人ではなくカタロニア人だ」と言って早く独立したいと言っています。地図ではひとつの色に塗られているのですが、中は複数の民族からなっており、日本との違いを強く感じます。
 今年からイタリアサッカ一部リーグ(セリアA)のレッジーナ(Reggina)に中村が入ってきました。まだ中田ほどの知名度はないですが、イタリアのマスコミの評判は上々です。一ヶ月前のスポーツ新聞には“中村、レッジーナに失望”という見出しがでていました。この間、レッジーナの試合をテレビの実況中継で見たのですが、中村の活躍に比べチームメイトの力が一歩不足という感じでした。このままではレッジーナは2部に落ちますが、中村は何処かのチームが拾ってくれるかもしれません。
 11月にクレモナに日本料理店ができました。今まであった中華料理店が変わったのですが寿司や天麩羅、刺身などが主なメニューです。様子を見ようと思い開店して直ぐには行かなかったのですが、弓の授業で先生のマエストロ(イタリア人)がこの店で寿しや茶碗蒸、天麩羅を食べたということで、私も行ってみました。板前さんは長崎出身の日本人でそこそこの腕です。ただ寿しのネタが少なく10種類位(魚は数種類だけ)しかなくまた値段もミラノの寿し店よりも割高です。思ったよりイタリア人のお客さんも多いのですが、日本人の皆でつぶれると困るので時々は行こうということになっています。
 今年の冬は久し振りに日本に帰ります。去年のようにクリスマスイブの夕方にイタリア人の友人(オジサン)達とパネットーネを食べ、ワインを飲めないのが残念ですが、6月に卒業試験があり論文を書かないといけないのでそのための本探しです。今のところ、テーマの候補は二つあるのですがイタリア語の本を読んでイタリア語で書くよりは日本語の本を読みイタリア語に訳して書く方が早いと思うからです。5月中旬には提出しないといけないので遅くとも3月から書き始める予定です。過去のものを見るとそれほど手をかけていないものもあり、少しは手を抜こうと考えています。卒業試験は面接形式で試験官は4人、生徒は一人です。論文についての質問が主ですが場合によっては教科に関するものもあるとのことです。内容は簡単で形式的だということですが私にとってはかなりのプレッシャーです。卒業試験に合格すれば卒業後の11月頃から3ヶ月間学校から指示されたマエストロの工房に通いヴァイオリンを1台作るコースがあります。これは州主催ですが、これが終わって本当に卒業したことになります。
 それではこの辺で失礼します。今年もあと僅かになりました。日本の経済状況はまだかなり厳しい状況ですが、新年が皆様にとって良い年になりますようお祈り申し上げます。