No.9 2001.12.28記

 イタリア人のクリスマスの過し方などを書いてあります。日本と違ったクリスマスでやはり本場のクリスマスです。
  製作学校では4年生になり、州の授業も増えました。
 それに、この年の11月には例のニューヨークでのテロがありました。偶然にテレビをつけると、世界貿易センタービルに飛行機がぶつかっている画面が何度も流れており、初めは事件とは思わず映画かと思っていました。この時の衝撃的な画面は今でもハッキリ覚えています。これからアメリカがイラクのフセイン政権打倒に動き始めた訳です。
 夏以来、半年振りの便りになってしまいました。なかなか便りを出さずすみません。こちらは学校の授業時間が増え、また家でも本格的に作り始めたこともあり毎日忙しい日々を送っております。クレモナは寒い日が続いています。クレモナでの3度目の冬ですが今年が一番寒い冬です。12月上旬頃から急に寒くなり始め、最低気温が零下5、6度の日がしばらく続きました。それでもクリスマス前あたりから少し寒さがゆるみ、良い天気が続いています。イタリアの冬も日本と同じようにシベリアからの寒波の影響を受け、今年は東イタリアの中部から南部にかけて大雪になりました。日本では北陸や山陰などの日本海側が雪が多いのですが、イタリアでは東側のアドリア海側の地方で雪が多くちょうど日本と逆の感じです。もちろん北部のアルプス山岳地方では雪が多いのですが、こちらはスキー場がたくさんあり、スキー客で賑わっています。
 先ず初めはイタリア人のクリスマスの過ごし方についてです。クレモナは例年のように12月に入ると主な通りにはクリスマス用の照明が灯り、日本とは違った感じのクリスマス気分になります。特にクレモナはこの時分、霧が多く、夜になると少しロマンチックな気分になります。町で一番大きな教会をドゥオ-モ(Duomo)と呼びますが、その建物とその横にあるヨーロッパで一番高い石の塔が霧に包まれると幻想的な気分になります。また、これは今年が初めてですが、市内の公園や広場など数カ所にメリーゴーランドが設置され、ウインナーワルツが流れて子供達が楽しそうに乗っています。また、土曜、日曜には汽車のカタチをしたバスが走り、これは子供だけでなく、高校生や大人達も乗って楽しんでいます。こういうのを見ていると本当にイタリア人は遊び方がうまく人生の楽しみ方をよく知っているなぁと感心させられます。クリスマスが近づくと日曜日でも開ける店が多くなり、日本と同じようにプレゼントの買い物をする人達で通りはいっぱいになります。そしてパネットーネというのが売り出されます。標準的には直径20~25センチ、高さ20センチ位でパンを大きくした形ですが普通のパンではなくケーキのようなものです。クリスマスが近づくと何かとこれをみんなで食べます。学校では授業のある最終日にみんなで一緒に、今年はめずらしく校長も一緒でしたが、ワインやジュースを飲みながらこれを食べました。学校以外では私の友達、ほとんどが60才を超えたオジサン達ばかりですが、彼らの場合は、私のアパート近くのバール(Bar:コーヒーやワインを気軽に飲むところ)に集まりパネットーネを食べました。24日の夕方6時頃から始まりましたが、一時間位、ワインを飲みながらワイワイやってあとは「クリスマスおめでとう」と挨拶を交わしながらみんな自宅に帰りました。日本ではクリスマスにケーキを食べますが、イタリアではこのケーキのような大きなパンを食べます。この大きなパンは地域によって少しずつ中身が違っており(名前も違うのですが)、砂糖がかけてあるだけで中に何も入っていないもの、中に干しぶどうやオレンジなどが入ったもの、そしてチョコレートが入ったものなど数種類あります。最近、日本でもパネットーネというのがあると聞いていますが少し小さいようです。それから、日本と違うのは25日のクリスマスは家で家族と一緒に静かに過ごし、教会のミサに出かけるのが一般的です。また、日本では25日よりもイブの24日の方が賑やかですがこちらでは24日の夜は家族と一緒に肉を除いた料理をいただくようです。24日の夜、たまたま知り合いのイタリア人の家で食事をご馳走になったのですが、肉料理はなく、魚中心の少し質素な感じの食事でした。おそらくどこの家でもこのような食事をし、そのあとミサに出かける家もあるようです。面白いと思ったのは日本の正月と同じように、クリスマスの時期だけに酢漬けの魚を食べることです。日本とは魚の種類が違いますが、ウナギを少しフライにしてそれを酢に漬けたものです。ウナギといってもこちらのウナギは大きく、少しグロテスクに見えるので、イタリア人でも嫌いな人が多いようです。日本では夏に蒲焼にして食べるのだと説明したのですが、こちらでは夏には食べないとのことです。
 学校は22日までありましたが、予定されていた試験が先生の病気などで延びて、結局は最後の週にようやく全部の試験が終わりました。日本人を含め外国人達はクリスマスにはそれぞれの国に帰る人が多く、早い生徒だと10日頃には帰るのもいて試験を受けられないのが何人かいます。来年に試験がある教科もあると思いますが、学校もいろいろな生徒がおり大変だと思います。個人的には、4年生になると試験が厳しくなり、2年生の時のように少し年を取っているからといって問題を教えてくれるような理解のある?先生もいなく、少し苦労しています。古い先生だと東洋人に対してある程度の配慮をしてくれるのですが、今年になってベテランの先生が辞め若手の先生が増えたせいもあります。まだ前期などで張りきっているのだと思いますが、次第に緩くなってくれればと思っています。
 学校の授業では4年生からは今までの授業時間の他に週7時間、ロンバルディア州主催の製作実習の授業が増えました。これはヴァイオリンの渦巻きだけを作る授業なのですが、マエストロは学校の製作授業のマエストロとは違う別のマエストロが来ます。前にも書きましたがマエストロによってかなり作り方が違うので生徒は同時に二人のマエストロから習うので少し戸惑います。若い生徒の中には、最初は州からのマエストロのやり方になじめないで反抗的な人もいましたが、だんだん話しをしている中にお互いに理解して今は問題無く進んでいます。こういうことはよくあるのですが、彼らは言いたいことをハッキリといいますが、そのあと話しあって理解できればあとは何も無かったようになります。私のグループのマエストロはイタリア人ではなくウクライナ人でこの人もかなりやり方が違っており、またセンスも違います。ヴァイオリンの中で渦巻きは一番個性の出るところですが、このマエストロの作った渦巻きにはロシアを感じます。派手さは無く素朴で、大らかな感じです。家でのヴァイオリン作りは今二台目を作っているところです。二台目になると少し早く作れるようになり、1月上旬にはニスのを塗る前の白木のヴァイオリンを完成させようと思って今、頑張っているところです。この休みを利用して一気に進めようと思います。まだまだ自分の納得するものは出来ませんが、数台作ったあとは、少しは科学的に実験をして良い音のするヴァイオリンを解明したいと思っています。ただ、これはかなり難しいことです。ヴァイオリンの音を科学的に解明しようと多くの人が試みましたが、結局は結論が出ずまだよく分かっていないからです。
 今年(2001年)は暗いニュースが多い年でした。ニューヨークの事件の時は偶然にテレビのスイッチを入れたのですがいつもの画面とは違う画面が流れており、最初はよく分からず映画かと思ったほどです。でも同じ画面が何度も流され、そしてCNNの臨時ニュースだと分かり大変な事が起こったのだということがしばらく経ってから分かりました。日本人の新入生はまだクレモナに来たばかりでテレビを買っていない人も多く、何人かの人は私の部屋でテレビを見ました。事件のあと戦争が始まりました。イタリア語の授業では、事件に関する新聞や雑誌の記事を読み、クラスの中で議論しました。こういう議論になると日本人はおとなしく、欧米人は強烈に自分を主張します。先生もそれに応えるように説明に熱が入ります。生徒もいろいろの国から来ているので考え方がマチマチで結局は意見を言い合うだけで終わりです。イタリアには東ヨーロッパや北アフリカから来ている多くのイスラム教信者がいますが、事件後、ミラノなどではアジトが見つかり逮捕されたのもいました。またアフガニスタン国王もローマに滞在しており、テロ対策も厳しいものがあります。初めの頃は国境近くの道路では検問が厳しくなり長い渋滞ができました。イタリアもアフガニスタンに軍隊を出しておりが、さらにクリスマス後にも、新たに軍隊を派遣するとの事です。
 1月からいよいよ通貨ユーロの使用が始まります。テレビではソフィア・ローレンなどの有名人が出てユーロのPRが始まりました。また銀行ではユーロ硬貨のセットとリラとの交換が始まりました。スーパーの値札にはユーロの方がリラよりも大きく表示されるようになりました。でもまだピンときません。2月末までが併用期間なのでそれまでに慣れればよいのですが、どうなるのでしょうか。日本人から見ると何事も段取りが悪いと思えるイタリア人ですが、この難局をどう切り抜けるのか見ていきたいと思います。
 今年もあとわずかになりました。アフガニスタンでの戦争はまだ終わっていません。イスラエルとパレスチナのテロと報復の繰り返しはエスカレートしています。そしてニューヨークのあの事件以来、世界の国々で多くの戦争があり、多くの人々が苦しんでいるのを知らされました。これらの人々にとって来年は今年よりも良い年であるよう祈りたいと思います。そして、皆様にとっても良い年でありますようお祈り申し上げます。
それでは、また。