No.7 2001.3.24記

  学校の授業の様子を書いてあります。製作実習の先生である若いマエストロのこと、試験の様子、同級生の若い日本人のことなどです。この若いマエストロは現在でも学校で教えていますが、あまり変わっていないようです。現在、在学中の日本人学生にそのマエストロの話をすると、「本当にそうだ」と言って笑っていました。良い先生につくのと、そうでないのとでは大きな差が出てくるのですが、先生を選べないので仕方ありません。

こちらクレモナはこの10日間位で急に春が来た感じで暖かい日が続いています。明日(3/25)からは夏時間になり、日本との時差が7時間になります。
 私の方は毎日、元気に学校に通っております。学校でのバイオリン作りは裏板と表板の隆起出しを終え、ちょうど裏板の内側を必要な厚さに削り終えたところで、これから表板の内側を削っていくところです。そのあとf孔を削り、表板と裏板を横板にニカワで接着し、そして本体の仕上げと続きます。学校から帰宅後は家でも学校で習ったことと同じことをやっています。学校は5月末までですが、このまま順調にいくと夏までには学校で一台、家で一台の計二台を完成する予定ですが、このあと復活祭の休み(1週間)や試験などもあり、まだどうなるかわかりません。というのも今年度(3年生)の実習のマエストロは、まだ30才代半ばの若いマエストロでヤル気はあるのですが、話が好きなのと若い女性の生徒ばかりに教えたがるので困っているところです。最近はもうだいぶ慣れてきたのでそんなに気にはならないのですが、女性の作業台では30分以上教えているのですが(教えているというよりもマエストロ自身が作っている感じですが)、特におとなしく口数の少ない我々日本人の学生のところでは、数分しかやって見せてくれません。ですから、進行具合もだいぶ差が出てきており、彼女達はもう表板と裏板をニカワで貼り合せるのを終わったところで本体はほぼ完成で、これから渦巻きをつくるところです。イタリア語を教えてもらっているイタリア人の女性にこのことを話したら「イタリアの男はみんなこうだから」と笑っていました。私もようやく最近はこのような光景を見て笑えるようになってきましたが最初はあまりにも進み方が違い、思うように進まないので別なマエストロを探そうかと少し悩んだこともありました。ただ、これはマエストロだけの問題だけでなく我々日本人の考え方にも問題があるのです。イタリアでは生徒達はマエストロが誰かに教えている最中でも、自分の聞きたいことがあれば割り込んでどんどんそれを聞き、また自分の作業を続けています。ところが特に私などはそうですが、日本人はマエストロが教えている途中だとそれが終わるまで待っているのですが、この辺が違うのです。それからちょっとイタリア語の話になるのですが、イタリア語では、友人の間で話す言葉と尊敬を持った人に対して話す言葉とは主語や動詞が違うのですが、彼女達は、マエストロはどう思っているのか分かりませんが、マエストロに対して友達言葉を使っています。我々はもちろんマエストロに対しては尊敬を持った言葉使いをしているのですが、この辺も違います。これは日本でも生徒と教師の関係が変わってきており同じ現象かと思います。先生達と時々話をするのですが、20数年前までは生徒は教師に対して尊敬を持って接していたのですが、最近は変わってきており、教えがいがあまりないので教師になるのが減っているとのことです。
 学校からは前期の成績表が配られました。二年生の時はイタリア語や難しいテクノロジアでは年を取っているからといって手加減をしてくれたのですが、今年はそんな先生がいなく、去年よりは全体に厳しくなりました。とはいっても、教科によっては試験の時に本やノートを見てよいのもありますので何とかなります。成績については私の場合は特に問題は無かったのですが、同級生の他の若い3人の日本人はすべて問題があり、欠席が多く、落第の可能性のあるのも1人います。このままだと日本人に対する信頼がだんだん無くなっていくようです。特に高校を出て直ぐにこの学校に来ている人に問題が多いのです。何となくバイオリンを作りたいというだけで簡単に留学ができることが問題だと思います。また変な話ですが授業料が安すぎることも問題なのです。1年間で授業料が日本円で約8千円ですから、あまり休んでも損をした気分にはならないことも原因の一つかもしれません。
 少し話が暗くなりましたが、ここで私の学校での、というのもイタリアの学校がすべてこうだとはとても思えないので、試験の時のカンニングについて書きます。これは数学の試験の時ですが、問題が配られた後、出来の悪い生徒(2、3人)は予め用意したメモ用紙に試験の問題を写し書き、それを良く出来る生徒に回します。要は答をこの紙に書けと言うことです。そして書いたらそれを元に戻し、先生のスキを見ながら自分の答案用紙に写し書きするのです。最初は私のところにも回ってきたのですが、最近はあまり回って来なくなりました。というのは、問題の解き方が日本と少し違うので先生が見ると本人が解いたのではないことがすぐ分かるからです。またこんなこともありました。問題をひとつひとつメモ用紙に書いて回すのですが、中には本人では難しくて解けない問題もあり、その時には“これはおまえは解けないから書かない方が良い”と書いて返すこともありました。英語も同様で、メモ用紙に問題の番号を書き、それに答えを書くように回ってきます。先生はこのことをどこまで知っているのか分かりませんが、これはさすが我々日本人の中ではやっていません。イタリア人やスペイン人などに比べたら、日本人は実に大人しいものです。試験の時は面白く、最初は静かにしているのですが、だんだんと答えを仲間に教え始めたりして、少しずつ騒がしくなってきます。遠くの仲間には目と口と手で合図しながら、答えを教え合ったりします。先生は静かにするように何度も注意するのですがまたすぐに騒がしくなり、こちらも落ち着いてできないこともあります。また、試験勉強をしていない場合、試験当日に先生に「今日はみんな勉強をしていないから来週に延ばして欲しい」と交渉をすることもあります。先日もテクノロジアで、学級委員が代表して先生に延ばしてくれるよう頼んだのですが、これはダメでした。イタリア人達は勉強していない場合、先に延ばした方がよいのですが、外国人にとっては先に延ばしてもあまり関係ないので、早く終わった方がよかったので助かりました。
 ここで最近の話題にふれたいと思います。まず初めは、今年になってからイタリアを騒がせている狂牛病のことです。狂牛病がイタリアで最初に発見されたのはクレモナ県の北隣のブレーシャ県(Brescia)、二番目が東隣のマントバ県(Mantova:ここはオペラで有名です)ということもあり、クレモナ市民はだいぶ不安になっています。狂牛病が最初に発見された頃は、スーパーの肉売り場ではまだそんなに影響がなかったのですが、最近は牛肉売り場が少し狭くなり、そのかわり他の肉や魚売り場が広くなりました。私も気になるので牛肉を食べているかを何人かに聞いたのですが、若い人はあまり牛肉を食べていないようですが、それ以外の方、特に60才以上の方はほとんど食べているようです。イタリアでは検査を厳しくやっているから大丈夫だといわれるのですが、ちょっと不安です。私も二ヶ月位は肉を食べていなかったのですが、大家さんから肉料理や牛肉の入ったロールキャベツなどをいただいたり、また小牛の肉を買ったりして時々は食べています。大家さんは自分が作った肉料理を孫達が食べなくなったので少し怒っていましたが、料理を作る人は大変だと思います。ただ、つい最近、牛と同じように粉の飼料を食べている養殖の魚や豚にも狂牛病と似た病気が発見されたようで何を食べてよいか分からなくなってきています。
 最近のテレビでの日本関係のニュースでは、ハワイ沖での“えひめ丸”の事故が大きく報道されました。この時には、ゴルフをしていた森首相の対応の悪さや沖縄の米軍基地のことも関連して報道されました。それ意外ではほとんど無く、森首相の辞任関連のニュースは報道されていません。以前にも書きましたが、イタリアでは国内のニュースがまず第1でその次がヨーロッパ関係です。コソボやマケドニア、それに中東のイスラエルなどの紛争はよく報道されます。アメリカ関係ではニューヨーク株式市場のニュースは毎日ありますが、政治のニュースはほとんどありません。イタリアの国内関係では、先ず、政治・経済関連がトップで報じられますが、あとはいわゆる三面記事でこれは日本よりも多く時間をさいています。また日本と違っているのはF1レースやサッカーなどのスポーツもトップで報道されます。FIはフェラーリがイタリアということで日本との扱いはかなり違っており、世界各地でのF1レースはすべて国営のテレビ局で中継されます。
 3月12日からは、また、中学校の“外国人のためのイタリア語コース”に通い始めています。月曜と火曜の週2日です。去年よりは難しいコースですが去年の仲間も何人かいて楽しく受けています。また、いろいろな人と知り合いになれるのもこのコースの楽しみの一つです。イタリアにはアフリカから来ている黒人の人も多いのですが、彼らは陽気で見ているだけでも楽しくなります。イタリアでも同様で黒人ということであまりよい仕事につけない人が多いのですが、本当に陽気で、気候が関係しているのかと思っているのですが、これも私にとっては不思議なことのひとつです。
 だいぶ暖かくなってきたので久しぶりにこの前の日曜日はポー川の土手を自転車で走ってきました。イタリアはスポーツとしての自転車が盛んでクレモナにも自転車練習場があります。ただ、自転車練習場はグルグル回るだけで面白くないので、どうしても土手を走ってしまいます。この土手はジョギングコースと一緒で17kmあります。クレモナの市内からだんだん離れ、畑の中をどんどん行くのですが家族連れで自転車で来ている人や、馬に乗っている人にも会ったりします。本当にただ畑だけで何も無いところを走っていると(これからはタンポポが咲いてきますが)、本当にイタリアを実感します。また、ポー川の周辺には、ボートコースやキャンプ場などもあり、ここに来るとイタリア人達が人生を楽しんでいる様子を見ることができ、これも楽しみの一つです。