No.6 2年目(2000.9~2001.8):ヴァイオリン製作学校3年

3年生になると専門教科(ニスなど)の授業が増え、イタリア語がさらに難しくなってきて苦労しています。イタリア名物のストライキやようやく家でできるようにヴァイオリン製作などについて書いてあります。

今年もあとわずかになりました。毎年、12月に入るとクレモナの町では大きな通りにはクリスマスのイルミネーションが飾られ、夜になると大変きれいです。またドーム(その町で一番大きな教会のこと)の前にも大きなクリスマスツリーが飾られています。学校は12月23日迄ですがクリスマスが近くなってきましたので教科によっては、フェスタと言ってワインやジュースなどの飲み物や菓子パンなどを買ってきて授業の最後に「クリスマスおめでとう、みんな元気で!」と乾杯して、あとは食べたり飲んだりして、ワイワイガヤガヤで授業は終わっています。
製作学校は9月中旬から新学期が始まりましたが、日本人の新入生は一年生が5人(女性1人)、3年生編入が1人です。今年は全体に入学希望者が多く、この影響を受けて私のクラスも人数が増え、24人になりました。
私は3年生として元気に通っております。3年生になると製作実習の時間が2年生の時の週7時間から倍の14時間に増えました。また新しい教科としては、ニスの授業が増えました。その分、数学やイタリア語、英語などの時間が少し減りました。2年目ですが相変わらずイタリア語では苦労しています。また他の教科でも、昨年のように手加減をしてくれる先生があまりおらず、まだ始まったばかりですが3年生には全体的に厳しいようです。また学校も遅刻や欠席にだんだん厳しくなってきました。去年には無かったのですが、先生によっては、15分以上遅れた場合は教室に入れないで2時間目まで待たされることもあります。ただ、これは徹底されておらず、たとえばニスの授業では、人数が揃うまで先生が待ってくれます。この辺は日本とは違っている点で、何をやっても徹底しなく、何となく曖昧で最後は個人の判断が優先されているようです。少し話はそれますが、先生のストライキがあるのですが、これもストに参加する先生と参加しない先生がおり、生徒の方はいちいち確認する必要があります。ストといえばイタリアではいろいろなストがあり、またその回数が多く日常的です。イタリアでは国鉄や地下鉄、バスなどの交通機関のストの他に、ガソリンスタンドのストもあり、また教師のストが年に2~3回(日本でも以前ありましたが)あります。変わったところではジャーナリストのストがあります。この時には、新聞だけでなくテレビのニュースキャスターもストに参加していますので、局によってはピンチヒッターで慣れない人が原稿を読んだり、他の番組を流したりしています。日本では考えられないことですが、ちょうどあのアメリカ大統領選挙結果の最高裁の最終判断を待っている時期でしたが、ストは予定通りありました。
バイオリン製作の方は、今年の5月から家で作業ができるようになり、学校の授業のない夕方から夜にかけて作業をしています。今、途中のものが学校で1台、家に2台あります。学校の1台と家の1台は同じ進行状況で、学校の授業で習ったところを家で自分ひとりで作っています。現在、横板の接着を終え、次の工程の表板用と裏板用の接ぎ合わせを終え、それをちょうどバイオリンの形に切ったところです。これから鑿を使って裏板と表板の加工に入ります。バイオリン製作工程ではいくつかのポイントになる作業があるのですが、そのひとつにこの接ぎ合わせがあります。接ぎ合わせをする面を隙間が無いようにカンナできれいな平面にし、ニカワ(最近ではボンドを使っているマエストロが多い)で接着するのですが、カンナ(鉋)のトラブルや接着方法の問題でなかなかうまく出来ませんでしたが、ようやく接ぎ合わせをすることが出来ました。自分でやってみるとなかなかうまく行かず、夜遅くまで作業をしたり、数時間、休憩をしないで鉋をかけたりしていることもあります。特にそんな時は疲れてきており、あまり考えないで作業をしていることもあり、これがまた失敗の原因となり、また初めからやりなおしになったりして本当に疲れる作業ですが、自分だけで出来るようになり少し自身がつきました。来年の夏には帰る予定ですが、それまでには何とか一台完成させて持って帰りたいと思っています。
バイオリン製作には多くの作業がありますが、マエストロによっては作り方や使う材料が違うことがあります。たとえばAマエストロは「こうヤレ!」というのですが、Bマエストロは「それはダメで、こうしろ!」ということもあります。材料も細かいところでは違ったものを使っています。まだどちらが良いとも分からないので今のところは言われるがままにしています。クレモナには偉大なマエストロが二人いるのですが、作り方が違うところもあります。1人は昔からの古いやり方をそのまま継承しているマエストロ、もう1人は昔のやり方を合理的に改良し、比較的多くのバイオリンを製作しているマエストロです。
 今年を振り返ってみますといろいろのことがありました。
先ずは引越しをし、良いアパートが見つかったことです。学校からは少し遠いのですが、家で作業もできるので特に問題はありません。以前のアパートは学校の前にあり、通学には便利でしたが、会社として使っている部屋があった関係もあり、アパートの人との交流があまりなく、少しつまらないところでした。今のところは大家さんが同じ階に住んでおり(3メートル位前に)、またアパートの前に小さなスーパーがあるのですがそこの家族も親切にしてくれ、またその店のお客さんとも知り合いになったりして、イタリア人との付き合いを楽しんでいます。。
二つ目はバイオリン製作のコンクールのことです。3年に一度、クレモナではバイオリン製作のコンクール(トリエンナーレといいます)があるのですが、1976年に始まって今年は9回目だったのですが、今年はイタリア人の優勝者が出なかったことです。バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの4部門についてあるのですが、ひとりのドイツ人がほとんどの賞を独占してしまったのです。それに問題となったのは、その優勝した作品が製作者の目で見るとあまり良くなかったということです。優勝作品や入賞作品は1週間展示されるので私も見ましたが、確かに作る立場から見るとあまり良くなく、他に良いものがありました。ただ、そのあと、ニスの授業の先生(マエストロ)から10人の審査委員の1人なのでその審査基準を教えてもらったのですが、今年は演奏家の意見が尊重され、まず最初(一次審査)は実際に弾いて“音の良さ”で選別したとのことです。日本からも20数台の参加があったのですが、入賞者は1人もいませんでした。おそらく、充分に調整しないままでコンクールに出したので最初の選別で対象外となったのだと思います。部外者(私もまだその1人ですが)から見ると、どんなに作り方が良くても音が良くなければ製作者の自己満足に終わってしまうので今回の審査は当然だと思うのですが、ただ音だけで判断するというのも一時的なことであり危険性も含むということもあり、しばらくの間、クレモナではこれが話題となりました。
 最後はポー川の洪水です。異常気象だということですが10月から11月にかけて北イタリアでは長雨となり、ポー川が氾濫しました。ヨーロッパの川は日本の川と違って流れが遅く水量が多いのですが、このためか大雨が降ると洪水が上流のトリノ辺りで発生し、それから徐々に下流に移っていき、すべての流域が洪水となりました。クレモナでは約1週間後にポー川の水位が7~8メートル高くなり、公園やサッカー場が水につかりました。また鉄橋も危なくなり鉄道も運休になりしました。
新年(2001)は学校は1月8日から始まります。バイオリン作りが家でも出来るようになりましたので、あまりあせらずにイタリア流の生き方でバイオリン作りを勉強したいと思います。