No.2 1999.10.29記(入国2ヵ月後に書いたもの)

学校がスタートして2ヶ月が経ちました。まだイタリアでの生活には慣れていないのでいろいろなことで日本との違いを感じています。また初めてのこともいろいろ経験しています。

 こちらクレモナは、ここ2、3日は20度を越え、暖かい日が続いていますが、その前の一週間は日本の梅雨と同じような天気で、晴れ間がなく、雨が降り続き寒い日(最高気温が13~14度)が続いていました。それでも、緯度でみるとクレモナは北海道の稚内と同じ緯度ですから暖かいのかもしれません。イタリアは日本と同じように南北に長い国のため、気温の差がかなりあり、この時期でも南のナポリでは27度前後、さらにマフィアで有名なシチリア島のパレルモでは30度を超えることもあります。
 この一ヶ月の間でのテレビのニュースでは、東海村の原子力処理施設の事故がイタリアでは3~4日間、トップで扱われていました。朝起きてテレビをつけましたら日本からのニュース(映像はNHKのもの)がトップで報じられ、何か大事故でも起きたのかと心配しました。学校に行くと、イタリア人の同級生が「日本で原子力の事故があったよ」と教えてくれたりして、心配したのですが大事故にはならなかったようですね。テレビのニュースでは殆どイタリア国内が中心で、ヨーロッパの話題が少しあるくらいで、日本と違ってアメリカ関連の政治関係のニュースは殆ど流れません。もちろん、為替の相場や、ニューヨークや東京の株式市場のニュースは毎日ありますが、日本はアメリカに依存しているのだということを感じます。こちらに来てからの国外のニュース(ヨーロッパは別にして)は台湾、メキシコ、ロサンゼルス近郊の地震と東海村の事故ぐらいです。また、この1週間でアメリカ関係であったのはヒラリー夫人の誕生日の話題ぐらいで、政治に関連したニュースはありません。テレビ番組では日本人から見るとくだらないものが多いといえます。視聴者参加の番組や、映画が多く、政治よりも自分たちの生活を楽しむ番組が多いです。サッカーの中継放送は思ったより少なく、特に中田や名波のいるセリアAの放送は実況中継は殆どなく、日曜日なんかに録画で放送されています。ただ、これは不思議だと思っているのですが、実況中継は無いのですが、その試合の行われている時間に、スタジオで評論家が数人出て試合の状況を解説したりして議論をしているのです。そして、どこかの試合で点が入るとその時だけ2~3分間、実況放送されるのです。どうして実況中継をしないのかまだよくわかりません。こういうチャンネルが同時に数チャンネルあります。もしかしたらイタリアはトトカルチョがありますのでそれに関係して中継をしないのかもしれません?テレビの番組ではまた、カーレースや自転車レースの実況中継も多く、マレーシアでのレースのこと(シューマッハ、フェラーリーが中心)や今週末に鈴鹿であるF1のこともテレビで昨日(木曜日)から報じられています。
 ところで、学校が始まってから2ヶ月が経ちましたが、まだ時間割の変更や教師の変更があり、落ち着きません。学年によっては、まだ教師の決まっていない教科もあると聞いています。また、教師の都合で休講になることが多く、たとえば私のクラス(2年生)では、イタリア語の教師がアパートのトラブルで先週から休みで明日(土曜日)の授業もなく、これで2週間休講ということになります。この学校の教師の半分はまじめに時間通りに来て授業を始めますが、あとの半分は10~15分ぐらいは遅刻します。学校には来ているのですが廊下でおしゃべりをして鐘が鳴ってももなかなか来ない教師もいます。このあたりがイタリアだなぁと思います。一方、生徒の側では外国人の生徒の大半は高校を出ていますので、今更、数学や生物の授業は受けたくなく、実習工作の時間を増やして欲しいという要求があります。3年前から校長が変わり、授業内容がかなり変わり、実習工作の時間が大幅に減ったとのことです。このため学生の中には、学校に不満を持っているのが多いようです。先週の土曜日に学校と話合いをする学生の代表者選出の選挙があり、彼らを中心に抗議デモや集会があるとのことです。日本ほど激しくないということですが昔の学生運動を思い出します。なお、これによって少しは改善されており、無駄にはなっていないようです。ただ学生にも問題があり、特に外国人の遅刻や欠席が特定の学生に多いのが目立ちます。2年生の場合は、特に日本人の遅刻、欠席が多く、時々注意をしたりしていますが、日本の大学と同じようなことがこの学校でもおきています。また、外国人の場合、個性の強いのが来ていますので学校もその扱いが大変なようです。私のクラスもイスラエルからの女性は製作実習のマエストロ(世界的に有名な人ですが)とうまくいかず、クラスをいつの間にか変わっていました。それぞれの国の特質と言ったらいいのかどうかわかりませんが、いろんな学生がいて、ほんとうに学校も大変だと思います。

 食事の方は、ご飯とパスタ(マカロニ中心)を中心に適当に作っています。こちらでは魚は肉よりも高く、また、あまり活きが良くなさそうなので烏賊しか買ったことがありません。今は、ほうれん草が出ていますので良く食べています。また果物では、柿が大好きなのですが安いのでよく食べています。秋は「食欲の秋」といわれますが本当にイタリアでもそれを感じます。買い物の仕方で日本と違うところは、野菜や果物の場合、自分で欲しい量だけを取ってビニール袋に入れ、秤にかけて該当する番号(たとえばリンゴなら38番と)を入力すると値段がプリントアウトされ、それを袋に貼りレジに持っていくことになっています。もちろん、こんなことは初めは知りませんでしたので、レジのお姉さんに教えてもらいましたが。また日本でも最近は水を売っていますが、クレモナは水道管が古く、場所によっては臭いのするところもありますので、水(普通は1.5リットルのペットボトル)を買う必要があり、売り場もかなりのスペース(30m2前後)を使っています。値段は1.5リットルで10円から50円ぐらいと巾があります。1.5リットルなのでかなりかさ張って重く、一回に2本位しか買えず、特に暑いときは水を買うためにスーパーに毎日行くような感じでしたが、自転車の前に籠をつけ、6本を一度に運べるようになり、毎日の買い物から開放されました。
 イタリア語は、市の中学校で外国人のためのイタリア語講座がありそれに通い始めました。先々週、レベル判定の試験を受け、教師から勧められたクラスがあったのですがちょうど授業が遅くまである日なので、少しやさしいのにするか難しいのにするか試しに二つのコースに出ています。なかなか思うようにはいきませんが、語学はあせっても仕方ないので、じっくりやろうと思います。
 インターネットですが、まだ一ヶ月は掛かりそうです。まず電話を引くのに超えるべき関門がたくさんあり、外国人の学生にはなるべく電話を引かせたくないように感じるくらいの書類を要求されています。というのも以前、電話代を払わないで逃げた学生があり、その影響だということです。
 クレモナにきてまだ2ヶ月ですが、いろいろなところで日本との違いを感じます。学校の教育方法では、人数が少ないからだと思うのですが、個人的に指導する場面が多いです。例えば、音楽の授業でバイオリンの奏法を教えるのですが、画一的にしないで、できない生徒にはあるレベルまで個人的に教えます。ですから、教室には生徒と先生が1対1で、他の生徒は適当に空いている教室を見つけ、それぞれの課題を弾いて順番を待っています。数学も一人一人がどの程度理解しているのか確認しながら進めています。よく言えばこうですが、悪く言えば要領が悪く「日本だったらこうするだろうなぁ」と思うことがよくあります。こんなこともありました。電話を引くために必要な書類を市役所に取りに行ったのですが、生憎、コンピュータが故障で貰えませんでした。取り扱い時間が午後一時までなので、こちらは何とか都合をつけて取りにいったのですが、職員は「今日は駄目」と簡単にいうだけで断られました。日本なら、市民からの文句が激しく、職員も一生懸命に修復作業をすると思うのですが、そんな気配は全然なく、のんびりと普段どおりにやっていました。帰りによくみるとドアのところに小さな張り紙がしてありました。
 クレモナはミラノからたった90km離れているだけですが、ここに居ると日本との違いを痛切に感じます。本当に時間がゆっくり流れています。また、人とのつながりを大事にして生活しています。日本で毎日、働いていた者には良い経験になります。まだ2ヶ月ですが、ここに居てもっと日本の良さ、イタリアの良さを知りたいと思います。